妊娠初期(13週6日まで)の注意点
この時期は赤ちゃんも小さく、胎盤が完成していないので栄養が偏ってもそれほど心配ありません。できればサプリメントで葉酸などの栄養素を補っておきましょう。
出血、腹痛
生理2日目以上の出血や持続的な腹痛がある場合は予約外でも優先して診察しますので早めに受診をしてください。
つわり
8割の妊婦さんがつわりを経験します。妊娠16週頃までに半数の方が改善します。食べられそうなものを少量、数回に分けてでも摂取しましょう。漢方によって症状が軽減する場合もあります。嘔吐を繰り返す、食事、水分が摂れない、体重減少が著しいなどの場合は安静や点滴(水分とビタミン)治療が必要になりますので受診してください。なお、休職の診断書や傷病手当金支給申請書等の発行もしていますのでご相談ください。
食事
塩分や甘いものは控えめに。頻度は高くないですがトキソプラズマやリステリア感染のリスクがあり、生ものは避けたほうが無難です。魚を食べることはおすすめしますが、水銀含有量の少ない種類にしましょう。また、飲酒は控えましょう。
薬
妊娠中、影響のない薬はたくさんありますので過度に神経質になる必要はありません。風邪や頭痛、便秘などは医師にご相談ください。
サプリメント
妊娠をするとより多くの栄養素が必要になります。妊娠する前から妊娠11週末まで、葉酸(0.4㎎/日) を食物やサプリメントで摂取しましょう。葉酸は細胞が増殖(分裂)する為のとても大切なビタミンです。 胎児は盛んに細胞分裂をする為、たくさんの葉酸を必要としますが、葉酸が不足してしまうと胎児の神経や脳が形成不全を起こし、二分脊椎や無脳症になってしまいます。また、葉酸はビタミンB6やB12とともにホモシステインという物質を代謝(解毒)し流産や早産、そのほかの妊娠合併症を予防する働きも示唆されています。また、ビタミンDはカルシウムとともに骨を作りますが、そのほか、流産を予防する、胎盤を作る、妊娠高血圧症候群を予防する働きがあります。ほとんどの日本人女性で不足しています。妊娠中はバランスのとれた食事をこころがけ、不足分は栄養補助サプリを利用しましょう。
喫煙・受動喫煙
妊娠中の喫煙は早産、低体重児、胎児異常や乳幼児突然死症候群などのリスクがあります。また、受動喫煙も早産、低体重児のリスク因子となりますのでご夫婦ともすぐに禁煙をしましょう。
感染症対策
人混みを避け、手洗い、うがいを励行しましょう。妊娠中はコロナウイルスやインフルエンザが重症化しやすいため、感染症の流行状況を確認し、ワクチンを接種しましょう。また、のどの痛みや発熱などの症状を伴う劇症型A群溶連菌の感染は子宮内感染のリスクが高いため、感染が疑われる場合は内科を受診して検査をしましょう。 あらかじめ様々な感染症の抗体価を調べ、自分が気をつけるべき感染症の知識を得ておくことも大切です。
旅行
妊娠中はおなかの張りや出血など予期せぬ事態があり、旅行はおすすめはしません。
運動、自転車や車移動
体調が良く妊娠が順調であれば、妊娠中は軽い運動をしましょう。妊婦さんの運動はウォーキングがおすすめです。人と話せるスピードで、体調がよければ1~2時間程ゆったりとした気持ちで行うのがおすすめです。運動をしていてしんどかったり、お腹が張るようであれば、安静を優先しましょう。他にはマタニティスイミングやマタニティヨガもおすすめですが、施設によって診断書が必要なところがあるのでご確認ください。お腹に負荷がかかるものや強度の高い運動、転倒のリスクのある運動はやめましょう。妊娠中はお腹が大きくなり、バランスがとりにくく、転倒の危険性があるため、自転車は乗らないようにしてください。歩いているだけで転倒する方もいます。また、自動車に乗るときはマタニティシートを使用し、お腹にシートベルトが当たらないようにしてください。
ストレスと仕事
妊娠は母体にホルモン、免疫、循環等、劇的な変化をもたらします。ストレスを避け、無理のない生活を心がけてください。休職などで診断書が必要な場合はご相談ください。
流産の可能性を指摘された場合
妊娠経過が順調である場合もあるため、流産の確定診断までは、禁酒や禁煙など妊娠中の生活をこころがけてください。
妊娠中期(14週0日以降)以降の注意点
妊娠中期には胎盤が完成し、胎盤を通して赤ちゃんに栄養が送られます。バランスの良い食事を心がけましょう。お母さんの体重が増え、お腹が目立ち始めます。マイナートラブルも起こり始めます。出血、腹痛やお腹の張りや胎動減少など気になることがあればすぐに受診をしてください。夜間・当院が休診日であれば分娩施設に連絡してください。
貧血
血液の量が増え、赤ちゃんが成長するために鉄が必要になり、胎盤を通して赤ちゃんにたくさんの血液が送られます。そのため、貧血になりやすく、1日20mgの鉄を接種することが推奨されます。たちくらみ、めまい、頭痛、息切れ、疲れやすいなどの症状があればご相談ください。
切迫流産
妊娠22週未満の方で出血、腹痛がある場合は切迫流産と診断します。子宮の入り口(頸管長)の長さを計測します。人によってさまざまですが、基本的には安静にして経過観察することが多く、必要であれば入院などの指示をします。
切迫早産
妊娠22週以降妊娠37週より早くお産になる可能性のある状態です。頻回の子宮収縮や子宮の入り口(頸管長)が短かくなるなど早産となる可能性が高い状態をいいます。出血、下腹部痛、腰痛、子宮収縮(おなかが張る・子宮が硬くなる)などの症状があります。破水を伴うこともあります。対処法は、安静を保つことが第一です。できるだけ安静にし、安静にしても痛みを伴うおなかの張りがひどくなる場合や出血があるときにはすぐに受診してください。
前期破水
「破水」とは赤ちゃんと羊水を保持している膜(卵膜)が破れ、羊水が膣内に漏れ出てくる状態を言います。「前期破水」とは、お産が始まる前に卵膜が破れ、羊水が流れ出ることを言います。破水した場合には、陣痛が生じやすくなり妊娠の維持が難しくなります。そのため、妊娠37週以前の破水は切迫早産につながります 。症状としては、水風船が割れた時のように多量の温かい分泌物が急に流れてくる感じがします。また、尿失禁のようにショーツが少し濡れる程度のこともあり、この場合は、尿や水っぽいおりものと区別しにくくなります。破水かな、と思ったら、清潔な大き目のナプキンを当ててすぐに受診してください。膣分泌物の性状などから破水かどうかを判断します。
妊娠高血圧症候群
妊娠20週から分娩後12週までの間に高血圧が生じる状態を「妊娠高血圧症候群」と言います。高血圧(140以上/90以上)と尿たんぱくがみられる状態です。重症化すると妊婦さんや赤ちゃんの生命にかかわります。急に症状が悪化することがあり、頭痛、悪心、目がちかちかするといった症状がある場合は要注意です。全妊婦の3~4%でおこり、妊娠前から血圧が高い方、肥満や妊娠中の著しい体重増加、高齢妊娠、家族歴、糖尿病、喫煙、塩分の摂りすぎなどでリスクが高まります。※HELLP症候群:妊娠高血圧症候群に伴って発症することが多く、症状として、突然の上腹部痛やみぞおちの痛み、疲労感・倦怠感、嘔気・嘔吐などがあります。すぐに受診してください。
妊娠糖尿病
妊娠中はそれまで指摘されていなくても糖尿病のような状態になり、食事療法や血糖管理が必要となることがあります。適切な時期に検査を行い、速やかに対処すれば、赤ちゃんや妊婦さんへのリスクを抑えることができます。当院では妊婦健診⑥で妊糖尿病のスクリーニング検査を行っています。
常位胎盤早期剥離
通常、胎盤は赤ちゃんが生まれた後に子宮の壁からはがれます。正常な位置に付着している胎盤が、出産前に子宮の壁からはがれてしまうことを「常位胎盤早期剥離」と言います。症状は、突然下腹部痛がおこり軽快しない、出血がある、お腹が板のように硬くなる、気分が悪く吐き気がする、下痢、背中の痛み、胎動がない等です。常位胎盤早期剥離が疑われる場合は、速やかに分娩することが原則です。すぐに対応しなければ赤ちゃんと妊婦さんご自身に生命の危険が及びます。心配な症状がある場合にはすぐに受診してください。
前置胎盤・低置胎盤
正常な胎盤は子宮口(子宮の出口)から離れて位置しています。胎盤が子宮口をふさいでいる場合を「前置胎盤」、胎盤が子宮口をふさいではいないものの、胎盤が子宮口に近接している場合を「低置胎盤」と言います。痛みを伴わない突然の性器出血が特徴的な症状です。当院では20週と30週で超音波検査を行い診断します。医師から胎盤の位置が子宮口に近いと指摘されている方は、すぐに受診してください。なお、前置胎盤では帝王切開分娩となります。
産婦人科医がお伝えしたいアドバイス
産婦人科医がお伝えしたいアドバイスを短いYoutube動画(ここをクリック)にまとめました。ご家族みなさんでご覧ください。(本動画は厚生労働省によって作成されたものです。)